第一話 アクア設立直後最大の危機
創業直後からの目の回るような状況の中で、
忙しくやっていましたが、
設立三カ月目で、
資金繰りに本当に困り果て窮地に追い込まれました。
仕事は順調なのですが、
請求を立てても、入金が無いのです。
約20年前の当時は、
今よりはるかに入金が遅かったのです。
請求書を直接手渡しても、
入金は三カ月目以降なのが、ほとんどなのです。
中には3カ月待たされた挙句に、
120日の手形を振り出してくるお客さんさえあります。
大手代理店さんの売掛金は、
どんどん積み上がって行きました。
毎月600万円ほどの売上が当初からありましたが、
入金は300万円ほどなのです。
3か月ほど待たされるからです。
様々な支払い、返済、家賃でほとんど消えます。
支払いや返済はムリをいって契約しているので、
待った無しです。
どうしようもありませんでした。
八方ふさがりの私は、考え抜いた結果、
八王子にある造園会社のU社長に
借金を頼む事にしました。
電話をして、事と次第の概要を話すと、
直接話を聞いてやるから、
とにかく来い、ということになりました。
第二話 私を救ってくれた恩人
U社長とは、一年ほど前に参加していた、
自己啓発セミナーで知り合っていた社長です。
私が27歳になったばかりで、U社長は30代後半でした。
八王子のおしゃれな雰囲気の、
大きな喫茶店で待ち合わせをしました。
話始めは、U社長から資金繰りのこと、
銀行対応のこと、
銀行対応でも借金の支払い日だけは
忘れないで支払え、ということ等、
経営者ならではの、はずしてはならない
注意点を話してくれました。
そして、私の方も仕事は順調だということ、
しかし、金の工面に苦労している事を話しました。
そして
「どうしても資金繰りで300万円足りなくて、
もうどうしようもありません。
すぐにお返ししますから、
お金を貸して頂けないでしょうか?」
と切り出しました。
すると、U社長は
「今まで原田君は、
テレビ局という大きな傘の下で仕事をしていたよね。
でも、今の原田君は何もないじゃないか。
今の原田君は社長といったて、
ただの借金を抱えただけの、
何の価値も信用もない人間だよ」
「今の原田君は、乞食と一緒だよ。
そんな乞食に金を貸す馬鹿がどこにいる!」
とまで、言われました。
後から考えると、
U社長は、世の中の評価という視点で見ると、
会社設立直後の借金を抱えた若造の社長なんて、
誰からも相手にされない。
その世の中の現実というものをよく理解しておけ、
という意味で言ってくれたのです。
そこまで言われても、
もう私はタダでは帰れないのです。
不本意とはいえ、
資金0から会社を設立することになり、
この数ヶ月間資金繰りに奔走し、
いくら銀行を回っても、まったく相手にされず、
酒乱でろくでもないオヤジに頭を下げて
保証人になってもらい、
借金を頼んでは友人知人を無くし、
挙句にサラ金にも手を出し、
クレジットカード詐欺まがいの商法に
引っかかっていた私には、
頼みの綱がU社長しかなかったのです。
そして私は、本当にどうしようもなくて、
人目もはばからず思わずその場で、
土下座をしました。
何百席もある大きな喫茶店の昼日中でしたが、
恥も外聞もなく、土下座してました。
「お願いです。5万でも10万でもいいです。
すぐにお返しますから、
お願いです、お願いです、お願いです。」
と何度も頼みました。
U社長はずっと黙っていました。
土下座している間は、
本当は1~2分だったのだ、
と思いますが私にとっては、
ものすごく長い時間に感じていました。
他のお客さんは、
唖然としたに違いありません。
私は必死でしたから回りは見えませんでしたが、
喫茶店で大の男が土下座しているんですから。
U社長は、それでもずっと黙ったままでした。
そして。
突然
「分かった」
と言って、
自分の懐から分厚い封筒を取り出し、
“ボンッ”とテーブルの上に置いたのです。
「ドブに捨てたと思って、この金をお前に貸してやる!」
と言われました。
私は、あまりの驚きと、
救われた安堵感で、土下座したまま、
「ありがとうございます。ありがとうございます」
と何度もお礼を言いました。
U社長は、私の本当の覚悟を見ていたのです。
生半可で、取りあえず会社をやろうとしているのか、
腹を決めて人生を掛ける覚悟があるのかどうか、
を試していたのです。
涙が溢れてきました。
U社長も泣いていました。
封筒には300万円が入っていました。
それからU社長は私にこう言いました。
「いいか原田君、
この金は君に貸すんじゃない、
君を信じてついてきてくれる、
社員のみんなに貸すんだ、その事を忘れるな!」
「君がどうなろうと、
俺は知らないが、会社が潰れたら、
ついてきてくれる社員のみんなが可哀そうだろ、
だから貸すんだ」
それから
「今回は俺が貸すが、
俺が、もし将来窮地に追い込まれた時は、
その時は頼むよ」
私は
「ハイ、お力になれるように頑張ります」
と応えました。
その場で私は、
コピー用紙に自筆で借用書を書き、
資金繰りで奔走していたため、
常日頃持ち歩いていた印鑑を押して、
何度も何度もお礼を言って、帰りました。
会社では、社員全員が事の成り行きを、
固唾をのんで待っていました。
お金を貸してもらったことを話すと、
みんな喜んでくれました。
しかしながら、当時のみんなには、
私が土下座までして借りたことについては、
とうとう話せませんでした。
貸してくれた事実だけを話しただけでした。
今では講演のときにこの話をしたり、
このブログで書いたりもしてますが、
当時は何とかしなければならないので、
必死だったというだけで、情けなくて、
カッコ悪くて、土下座の話は出来なかったのです。
振り返ると、アクア設立直後最大の危機を、
U社長に救って頂いたのです。
今でもなんとお礼を言っていいのか分かりません。
感謝してもしきれません。
その後、U社長とは折に触れて、
お会いさせていただき、
いい関係を続けさせていただいています。
U社長は、私とアクアを窮地から救ってくれた恩人なのです。
感謝の理由 立志 後編
おわり